平成12年度 研究報告 大分県産業科学技術センター
「杉樹皮製油吸着材」の実用化
斉藤雅樹*・石井信義*りJ \倉秀**■鈴木浩久** *材料開発部。綿海上災害防止センター調査研究室
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要旨
平成9年度から着手した杉樹皮製油吸着材の実用化研究は,昨年度までに実用性を確認した基本モデルの改良を行
ってきた.本年度,環境負荷のノトさい1009畠天然素材製の廃棄物利用晶(表1)として初めて汎用石油製品なみの性能
と価格(表2,表3)を実現し,製品化に至った.Å重油で自重の13.4倍,C重油で自重の16.5倍の油を吸着するこ
とが可能であり,運輸省の型式承認基準(自重の6倍以上の吸油)を満たす.水域での油濁事故から工場内にまで幅
広く使用可能な汎用タイプとしてのマット型油吸着材,主に海洋や湖沼などの油濁事故に使用される油包囲と油回収
の機能を兼ね備えたオイルフェンス塾の2種がある(表4,表5,図1〉
1. はじめに
油吸着材は海,陸の油流出対策の有力な資機材の一つ
である.既存の油吸着材は多くはポリプロピレン製品で
あり,一部で天然素材が使用されるが,吸油性能,価格,
吸洒後の沈降などで不利な点が指摘されている. 我々は平成9年度年以降の研究で杉樹皮製油吸着材の基
本性能と実用性を既に確認した.今年度は製品化を目標
とし,ぶんご有機肥料㈱(竹田市)と共同研究契約を締
結し,油吸着材開発プロジェクトオフィスにて開発を行っ
た.
2。開発のポイント
開発のポイントは以下のとおりである. (1)油吸着材の吸油性能をいかに高めるか 樹皮繊維のサイズ,形状,乾燥状態と吸油量の関係,
外包材材質,メッシュサイズと吸油量の関係,油吸着材
と油程(軽油∼重油など)とのマッチングなどを検討し
た.特に油の粘度と外包材のメッシュサイズにより攻油
量が著しく変化するため,軽油など低粘度油から潤滑油
など中粘度泊まで幅広く使用可能な汎用タイプと,C重
油などに用いる高粘度タイプの2種を用意した. (2)油吸着材の吸水量をいかに抑えるか
樹皮繊維のサイズ,形状,乾燥状態と吸水量の関係,
外包材材質,メッシュサイズと吸水量の関係などを検討
した.また,外包材に天然成分による撥水加工を行った.
(3)水中への沈降をいかに防ぐか
油吸着材が使用後に水中に沈むことは油と吸着材の回
収を困難にし,好ましくない .しかし,従来の天然素材
系の油吸着材の多くで,飽和吸油状態で水中に沈降する
現象が見られる.素材の持つ空隙によって見かけの比重
が水より小さくなり浮上するものでも,油により空隙が
全て置換されると素材の真の比重(例えば木材は約1.5)
が効き,見かけの比重が1より大きくなり沈降すると考
えられる.杉樹皮製油吸着材ではこの現象を防ぐため,
鉱石の発泡体を浮力材として少量混入することにより,
飽和吸油後1ケ月以上の沈降防止に成功した.
(4)いかに使いやすくするか
油吸着材は防災資機材として使われ,現場での良好な
作業性が求められる.緊急時には作業員数が十分でない
場合や足場が悪い中で作業しなければならない可能性も
ある。当センターでは国内の油流出事故対策の指揮機関
であり,代表的な研究評価機関である海上災害防止セン
ターと共同で,作業性につき度重なる改良を行ったきた。
平成11年に佐賀県と神奈川県の実験水槽(12m
X8m
な
ど)で3回の実用化試験を行い,正方形のマット型,平
板長大形のオイルフェンス型,パイプ形の円柱ブーム型
など合計12タイプの試作品につき作業性および水面に おける挙動などの検証を行った.特にオイルフェンス型
については,当初の作業員5∼6名を要する形状から1
∼2名で取扱いが可能なまでに改良され,最終的には4
タイプの試作品が実用に適するとの評価を受けた.サイ
ズ(特に幅と厚さ),形状,材質,曳航ロープなどを改
良した.
(5)100%天然素材へのこだわり
油吸着材を形成する外包材には当初,安価なポリエチ
レンやナイロン製の廃魚網が検討されたが,粗製コット
平成12年度 研究報告 大分県産業科学技術センター (2)地域資源と人材が活用できる杉樹皮製油吸着材 大分県は全国第3位の杉の生産量を誇る.産出される
樹皮の約3割が未利用のまま焼却処分される.また,車
椅子マラソン大会の開催や太陽の家の設立に代表される
ように,大分県は多くの障害者が積極的に社会参加を行
う地域である.杉樹皮製油吸着材は,県特産の杉廃材を
原料とし,製造工程は縫製作業が中心となるため障害者
の方々が働く授産施設での効率的な作業が可能である.
4.まとめと今後
研究成果に基づいて出願された特許(特願平1卜78257)に 関して,大分県とぶんご有機肥料㈱との間で実施許諾契約が
平成12年12月上旬に締結され,製造および販売が開始され
た.製造工程のうち縫製については県内の授産施設数ヶ所に
委託されているt ユーザーへの販売は「杉の油取り(ゆとり)」の 製品名で,丸菱㈱(福岡市),㈱日立金属エステート(東京都)
などから行なわれている(価格は表3参照).
また,製品化における過程で得られた知見につき,上述特
許を補完する特許(特顧2000−380687)を出願し,製造者を保
護する冒的で同様に実施許諾が行われる予定である.
謝 辞
本研究に多大なるご支援を頂いた日本財団に心より御礼申
し上げます. ンの不織布を採用した.また,吸水量低減の目的で検討
された杉樹皮への化学成分添加を中止し,外包材への天
然成分による撥水加工を行うに留めた.加えて,浮力材
に採用が検討された化学成分やポリマーなどに替わり,
鉱石の発泡体を用いた.縫製糸はコットンとした▲
(6)いかに簡単に製造するか
使用エネルギーを抑えるため,炭化処理や加熱乾燥な
どを行わず,自然乾燥に留めた.オイルフェンス型は円
柱形状や垂直形状が検討されたが,工程数の少ない平板 形状を採用した.授産施設での縫製を考慮し,油吸着材
の形状保持のためのキルティング加工は必要最小限に留
めた.また,ミシン縫いを可能にするため,杉樹皮の充
填を区画に分割して外包材のみを縫う方式とした.
3.製品の特徴
(1)製造。使用卜処分のどれもが環境にやさしい製品
近年,地球環境問題が声高に叫ばれ,製品の生涯にわ たる環境負荷が問われることが多い−
杉樹皮製油吸着材は,100%天然素材を原料としており7
製造・使用・処分の各段階において地球環境への影響を
低減するメリットがある(表1).素材自身のもつ特性
を活かし,製品製造に貴重な資源を費やさず,炭酸ガス
発生が少なく,使用∵処分時における安全性の高い,
「山のゴミで海のゴミを回収する」新しい発想の環境浄 化材を実現している.
表2 自重当りの吸油量量の比較(g/g) 表1 環境負荷の比較
粘度 杉村皮製 ポリプロピレン コットン製 毒(cSt ) 油吸着材 製油吸着材 油吸着材
57
13◆ ヰ ′I 1$.5 伯 川 B重油 山 76 u ‖ 〔廿5 H ≧9.4 18.3
書c重油ト400」5・− 書16・5(高粘度型) ∃+++++ ∃1・2 巨10【7 用 毎回 −2・7 u 0.86 19.2 潤滑油F14。芦13.$ 。.82 芦18.。
表3 販売価格の比較(円/k g)
杉樹皮製 lポリプロピレン コットン製 油吸着材 製油吸着材 油吸着材】 童 販売価格 H 1,800 2,000 H 3,900
*杉樹皮製油吸着材は予定価敵地はカタログ定価
平成12年度 研究報告 大分県産業科学技術センター
表4 杉樹皮製油吸着材共通仕様
項 目 仕 様 補 足 説 明
資源として豊富で一部廃棄されている杉樹 杉樹皮,パーライト(黒曜石発泡休),コットン不
使用素材
織布,コットン縫糸.コットンロープ
皮を利用
100%天然素材製
自然乾燥および粉砕
炭化,熟乾燥を使用せずエネルギー消費少 材料加エ
量
成形技術 コットン不織布の外包材部分をミシン縫製 熱圧着を使用せずエネルギー消費少量
外包材メッシュ
高粘度油には目詰まりを防ぐため,粗目の 汎用型/高粘度型
(mm)
専用タイプ使用を推奨
吸油能力 A重油13.4 運輸省基準では6以上で認可
(自重当り:g/g) C重油 5.1/18.5(高粘度型) 世界基準(t OSC)では10以上でGood
吸水量 運輸省基準では1.5以下で認可
0.1∼0.2
(自重当り:g/g)
浮力維持期間
飽和吸油後1ケ月以上
天然繊維系従来品には飽和吸油直後に沈降
(静水面) するものあり
処分方法 焼却
原料は全て焼却時の安全確言忍済み
製品の焼却時の安全性は検証中
表5 杉樹皮製油吸着材製品仕様
マット型 オイルフェンス型
外形寸法(mm) 450 × 450 × 15
やや厚型・外寸
450× 10000× 15 小型
平板型
4
内容物の偏在を
4
内容物の偏在 縫製段数
防ぐ を防ぐ
ロープ本数 作業用ロープの 主2(¢4.5 ×14000) 副ロープは連
(サイズ:mm) 設置可 副2(¢3 × 2000) 結補助用
従来品より
3.5∼4.5
従来品より
重 量(kg) 0.15∼0.2
やや重い やや重い
吸油能力 A重油 2,0∼2.7 Å重油 47∼60 作業状況によ
作業状況により
(1製品当り:kg/ C重油 0.8∼1.1 C重油18∼23 り吸油量が変
個) /2.5∼3.3(高粘度型)
吸油量が変動
/58∼74(高粘度型) 動
】簡単なオイル
用途
水面,床などの油回収
水面の油包囲一回収とし
平成12年度 研究報告 大分県産業科学技術センター
図1 杉樹皮製油吸着材マット型(左)とオイルフェンス型(右)